Webマガジン・ONTOMOさんの連載「オーケストラの舞台裏」に脩先生が掲載されています。https://ontomo-mag.com/article/interview/tmso_shushioda/
ONTOMOさんのページをこの場でもご紹介します。ぜひご覧ください。
ボストン生まれ、ニューヨーク育ち、ヴァイオリンとともに歩んできた塩田脩さんは、26歳で日本へ移住。東京都交響楽団の一員として活躍する傍ら、弦楽アンサンブル「石田組」と、異なる二つの舞台で音楽の幅を広げています。多趣味で知られる塩田さんに、日本での挑戦や音楽への向き合い方、そして趣味がどのように演奏に影響を与えているのかを聞きました。
「オーケストラの舞台裏」は、オーケストラで活躍する演奏家たちに、楽器の魅力や演奏への想いを聞く連載です。普段なかなか知ることのできない舞台裏を通じて、演奏家たちのリアルな日常をお届けします。

寺田 愛
編集者、ライター。女性誌編集、ECサイト編集・ディレクター、WEBメディア編集長、書籍編集長などを経て現在。はじめてクラシック音楽を生で聞いたのは生後半年の頃。それ以…
日本人としてのルーツ、でも育ったのはアメリカ
——ヴァイオリンを始めたきっかけは。
塩田脩(以下、塩田) 6歳年上の姉がヴァイオリンを習っていたのがきっかけで3歳から習い始めました。最初はヴァイオリンをギコギコ弾いていただけ。当時のことはあまり覚えていません。でも実は、3歳のうちに一度ヴァイオリンをやめているんですよ(笑)。4歳でまた始めて、そこからはずっと続けています。

塩田 脩(しおだ・しゅう)
アメリカ合衆国ボストン生まれ。8歳よりニューヨークに渡りジュリアード音楽院プレカレッジに在学。ニューイングランド音楽院卒業。2010年に来日し、京都市交響楽団ゲスト首席、兵庫県芸術文化センター管弦楽団ゲストコンサートマスター、小澤征爾音楽塾コンサートマスター、水戸室内管弦楽団など経て2014年東京都交響楽団に入団。第1ヴァイオリン奏者をつとめる。石田組、トリトン晴れた海のオーケストラ、サイトウ・キネン・オーケストラメンバー、玉川大学非常勤講師。これまでに潮田益子、田中直子、シャリー・ギブンスの各氏に師事。
——最近では、石田組の公演で組長(石田泰尚さん)から紹介される「ボストン生まれ、ニューヨーク育ち」がキャッチフレーズになっていますよね。
塩田 まさに、そのままなんですけどね(笑)。僕はいつもお客さんがざわざわして笑ったりするのは、なぜなのだろうと思っていて。
——それは、塩田さんがどんな人なのか興味があるのでは。
塩田 家の中では日本語で話していましたし、日本人としてのルーツはあるけれど、育ったのはアメリカ。26歳で日本に来るまでは日本人の友達がいなくて、ドラゴンボールの「ピッコロがナメック星に行ったとき(ピッコロは地球育ちだが、実はナメック星人の血を引いている)」みたいな状態だったんです。

この人たちと音楽をしたいーー日本行きを決意
——日本に移住しようと思ったのはなぜですか。
塩田 大きな影響を受けたのは、17歳の時に参加した小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトです。コーチがオーケストラのイロハを徹底的に教えてくれて。アメリカではそういう機会がなくて、すごく新鮮でした。この人たちのそばにいたいと思って、日本への片道切符を握りしめて来ました(笑)。
——実際に日本に来てみていかがでしたか。
塩田 ニューヨークではいろいろなオーケストラで演奏をしましたが、いまいち音楽への熱を感じられないし、結局はお金の話ばかり。でも、日本では同世代の演奏家やコーチたちが「ブラームスはこう弾くよね」とか「ベートーヴェンの解釈はこうだよね」と音楽について熱く議論していました。勉強不足を実感して、もっとここで学びたいと思いました。次第に日本人の友達ができて、カルチャーショックも乗り越えて日本にとけ込みました。

組長から言われてうれしかったひと言
——東京都交響楽団での演奏と石田組での演奏の違いは。
塩田 オーケストラは組織として統制や調和が大切。でも、アンサンブルはもっと個性がぶつかり合う場なんです。ある意味戦いにも近いのかな。どちらも違う魅力があり、両方を経験することで演奏の幅が広がります。都響で培った「合わせる力」を石田組で活かし、石田組での「自由な表現」を都響に持ち帰ることで、相互に成長できていると思っています。
——どちらも続けることで、自身の音楽にどのような影響を感じますか。
塩田 石田組では、自分が思っていることが間違いか間違いじゃないかもわかります。組長から褒められることはないけれど、この間「楽器変えた?」と言われてちょっとうれしかったですね。

趣味はすべて音楽につながっている
——音楽以外の趣味はありますか。
塩田 僕はめちゃくちゃ多趣味なんです(笑)。今いちばんハマっているのは、ビリヤード。都響でビリヤード部を作って若い衆を誘っています。そのほかにもトランペット、ゲーム、カメラ……いろいろやっています。でも、それらは全部音楽にもつながっているんです。例えば、ビリヤードは姿勢や集中力が重要で、それはヴァイオリンの演奏にも活かされます。何かに対して、知らない自分がいることが大切。ヴァイオリンを教える時にもその感覚が役立っています。
——今後の目標は。
塩田 シンプルに言うと、ヴァイオリンがもっとうまくなりたいです(笑)。どれだけ演奏しても、まだまだ学ぶことがある。それがクラシック音楽の奥深さであり、だからこそずっと続けていきたいと思っています。
——将来的には日本に住み続ける予定ですか。
塩田 今のところ、アメリカに戻るつもりはないです。家族は世界中に散らばっていますが、今は日本での生活がすごく気に入っています。日本の音楽環境に身を置きながら、さらに演奏の幅を広げていきたいですね。